久しぶりに、うどんげを見つけた。
うどんげは、クサカゲロウの卵塊で、数ミリの細い糸の先に、白く透き通った楕円形の卵がぶら下がったのが2個、葉の裏に並んでいる。普通は1つしかつけないが、たまに複数の卵をつけることがある。
透き通った白さがきれいであり、可愛らしくもある。
うどんげという呼び名は、想像上の花「優曇華」からきている。
見ていると、卵のひとつがもぞもぞと動いている。
そのうちに、その卵に縦に裂け目が入り、中から、幼虫らしきものが覗いた。
よく見ると、小さな人のような形をしている。
そうこうしているうちに、その幼虫は、卵の裂け目から、ぽとりと地面へ落ちた。
それは、二本足で立ちあがると、さささっと走って、どこかへ行ってしまった。
気づくと、もう1つの卵にも裂け目ができ、人のような形の幼虫が動いている。
突然、強い風が吹いて、葉を揺らした。
その卵は、風にあおられ、葉からするっと抜けるように、宙を舞った。
その白い糸は、そのまま、2階の窓のあたりへ飛んでいった。
しばらく経ったある夜、2階の、娘の部屋から、笑い声が聞こえてきた。
歌う声も聞こえる。
誰かに話しかけているような声も聞こえる。
子供が、ぬいぐるみに話しかけることは、よくあることだ。
次の日、妻が、娘に聞いた。
「昨日の夜は、楽しそうだったね。」
「うん」
「誰とお話ししてたの?」
「あのね、こびとさんと遊んでたの。」
想像の生き物が、あたかも目の前にいるかのように話しかけることは、子供にはよくあることだ。
「見て。なんか、きれいな虫。」
妻が、娘の部屋を掃除していたら落ちていたと言って、わざわざ持ってきた。
うすみどり色の体に、薄く透き通った羽。
クサカゲロウの死骸だ。
クサカゲロウの成虫は、羽化してから1日しか生きられない。
その短命さにたとえて、「かげろうの命」と言う言葉がある。