12. うさぎとかめ

「僕は、ご先祖様の汚名を晴らしたいんだ。」
うさぎの口癖だ。
「じゃぁ、今年も、かけっこしようか。」
かめが応える。
うさぎとかめは仲がいい。
理由はどうでもいい。仲がいいのだ。
仲がいいからこそ、彼らの先祖はかけっこをしたのだ。
かけっこで、うさぎは負けたが、愚痴をたれることもなく、また、かめもうさぎを馬鹿にしたりはしていない。
そのくらい、仲がいいのだ。
うさぎとかめは、飲み友達だ。
今日も一緒に酒を酌み交わしながら、楽しくお喋りしている。
ときどき、うさぎは、かけっこの話をする。
話の続きで、本当にかけっこをすることもあれば、話だけで終わることもある。
うさぎは、先祖が、ゴール前で居眠りをして、かめに先を越されたことを、自嘲気味だが面白可笑しく語る。
今日は、話が乗ってきた。
では、かけっこをしようということになった。
うさぎとかめは、それぞれの知り合いに告知し、多くの応援客も見に来ることになった。

かけっこの前日、うさぎとかめは、相変わらず、酒を酌み交わしていた。
どちらも部類の酒好きなのだ。
「明日はいよいよかけっこだ。今日は景気づけに飲もうぜ。」
盃は進む。
気づくと、明け方近い。
うさぎもかめも、かなり酔いが回っている。
これはいけないと思ったのか、どちらからともなく、家に帰っていった。

それぞれ、睡眠はとったのかどうかはわからないが、かけっこの時間には、うさぎもかめもスタート地点に到着した。
沿道は、たくさんの応援客で溢れている。
懸賞もついている。
勝負の賭けも始まっている。
ゴールは、言うまでもなく、向こうのお山のふもとだ。
いつの間にか、スタートとゴールに、ちゃんと審判がいる。
沿道の要所要所にも、審判員が配置されている。
スタート係もいる。
ついに、スタートの合図ともに、うさぎとかめは走り始めた。
うさぎは軽快に飛ばしていく
かめは落ち着いて歩を進めていく
と思いきや、様子が変だ。
うさぎの目は、二日酔いで真っ赤に充血しているのに、酔いでテンションが上がりきって、ピョンピョンと飛び跳ねている。
かめは、酔いに負けたかのように、ゆっくりゆっくりと足を繰り出して、進むとも進まないとも言えない歩みである。
どちらも、ゴールに向かって進んでいく様子もない。
結局、かけっこにはならず、お開きになった。

それからも、相変わらず、うさぎは充血した目でピョンピョンと飛び跳ねるし、かめはゆっくりゆっくりと足を繰り出して、進むとも進まないとも言えない歩みで歩を進めるのであった。


投稿者: ひとき

ひときの短編集作者