15. 二つの顔を持つ女

彼女の顔には、無数の関節があった。
通常、人の顔には、顎の関節があるだけで、他には関節はない。
そのため、顔は、口の開け閉め等で最も大きく変化し、あとは、表情筋によって、皮膚を変化させることで、きめ細かい表情を作り出す。
彼女の場合は、顔の骨の表面が、多角形のコマで覆われており、そのコマ同士が6次元で動く。
しかし、そのコマ同士をつなぐ筋肉はなく、顎を動かすときのように、各コマを自由に動かすことはできなかった。
唯一、表情筋によって、コマの角度、向きを変化させて、通常の表情筋だけの動きを超えた顔の変化を見せることができた。
例えて言うなら、二つの顔を持つ女というくらいの変化だった。
そうは言っても、表情筋の動きだけでは、望む形に自在に顔の形を変えることは、至難の業だった。

そんなある日、彼女は、フェイスバンドを見つけた。
それは、着けるだけで顔かたちが整うと言われるものだった。
彼女は、早速、そのフェイスバンドを買って、顔にかけてみた。
もちろん、意味もなく顔にかけるのではない。
自分が望む顔の形になるように、そのフェイスバンドで、形を整えるようにかけてみた。
彼女の望みは、誰しもが望むこと、奇麗になりたいことだ。
少しずつ丁寧に、形を整えながら、フェイスバンドを調整していく。
自分の望む形になったところで手を放し、フェイスバンドをつけたままにした。
3分後、フェイスバンドを外す。
鏡の向こうには、モデル並みに整った、美人顔の彼女がいた。

それ以来、彼女が外出するときには、そのフェイスバンドで顔を整えてから外出することが日課になった。

彼女がそのフェイスバンドを見つけてから1ヶ月ほど経った頃、彼女は、街中の女性たちの顔の変化に気付いた。
自分だけではなく、道行く女性たちの顔が、みんな、整った美人顔になっていることに気付いたのである。
それは、女性たち自身にとっても同じであった。

今や、フェイスバンドを持たない女性は皆無となり、それは、女性たちをさらに美しくし、それに伴って、自信に溢れた、快活な女性たちの世の中となった。

男たちは、...
今や、陰の薄い、弱弱しい存在となり下がったのである。


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投稿者: ひとき

ひときの短編集作者