6. 赤い車

その少年は、車が好きだ。
特に、イタリア製の、そのスポーツカーが好きだ。
その車は、とても庶民では手に入れることができないような高級車だが、その車に憧れる人は大勢いる。
少年もその熱心なファンの一人だ。
中でも、その車のシンボルカラーとされる、赤い車が大好きだ。
その赤い車には、他とは違う、特別な存在感がある。
少年の部屋は、壁という壁に、その車の写真やポスターが貼られ、模型やミニカーであふれ返っていた。
その車に関するコレクションは、少年の趣味であり、人生と言ってもいいほどであった。

その車を街中で見かけることは、なかなかない。
ごく偶に見かけたときは、絶好のシャッターチャンスだ。
すかさず、スマホで、その車を連写する。
うまく撮れたときの満足感には、この上ないものがあった。
少年はカメラマニアではないので、カメラを持ち歩いているわけではない。
だから、スマホのカメラで写真を撮る。
撮った写真は、パソコンの壁紙にしたり、印刷して部屋に貼ったりしている。

少年も成長する。
もう、少年と呼ぶにはふさわしくない年齢になったが、赤い車のコレクションは変わらない。
一方で、成長とともに、現実というものも認識するようになる。

彼は、消防士になった。
もちろん、消防車の運転をする。
その赤い車には、他とは違う、特別な存在感がある。

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投稿者: ひとき

ひときの短編集作者