17. ヘビになめられたカエル

カエルは動かなかった。
今、ヘビを目の前にして、ピクリともせず、ジッとして動かなかった。

こんなときなのに、カエルはこれまでの短い一生のことを思い出していた。

残してきた妻やこどもたちはどうしているだろうか。
そういえば、こどもたちには、まだ名前をつけてやっていなかったっけな。
とは言うものの、一万個以上の卵から一度に生まれてくる一万匹以上のこどもたち1匹1匹に、それぞれ名前をつけるなど、到底不可能だ。
それに、たとえ名前をつけてやったとしても、どの子がなんという名前なのか、わからなくなってしまう。
そうだな。名前なんて...。
カエルは、半ば自嘲的に苦笑いをしながら、ため息混じりにつぶやく。

そんなことを思いながら、今、自分はヘビを目の前にして動かずにいるのだと、我に帰る。
そんな状況の中で、走馬灯のように様々なことを考えて、その考えにふけってしまっていることの、なんと間抜けなことであろうか。

ヘビはカエルと触れてしまうくらい、すぐ近くまできていた。
ヘビはゆっくりと首をもたげ、口元がカエルの目の高さまできた。
そして、赤い細い舌で、カエルの鼻先をひゅるんと舐めた。

それは一瞬の出来事だった。
カエルは、目にもとまらぬ速さで、ヘビを舌に絡めてつかまえると、そのまま飲み込んだ。

ヘビの幼生は4~5cmほどの大きさだが、ウシガエルの成体は15cm以上にもなる。
初めから勝負はついていた。





投稿者: ひとき

ひときの短編集作者