ある会社に、チャンスと呼ばれた男がいた。
生まれつき、前髪しかないが、その前髪をつかんだ者は、みな、チャンスをものにすることができた。
彼は、社員から、陰で「チャンス」、「チャンス君」と呼ばれ、とても大事にされていた。
ある日、彼は会社を辞めた。
噂では、彼自身が大きなチャンスをものにしたということだった。
社員たちは、とても残念がった。
それ以来、心なしか、会社には活気がなくなり、業績もパッとしないものとなった。
そうした状況が続くうちに、誰からともなく、チャンス君を作ろうということになった。
会議室に数人が集まり、誰をチャンス君にするか、話し合った。
「女性社員は、さすがにその髪型は無理だろう。」
「自分は家族に驚かれる。」
などなど、なかなか、チャンス君が決まらない。
小一時間近く話し合っただろうか。
「それなら、自分が。」
と、一人の若手社員が名乗り出た。
彼は独身で一人暮らし。彼女もなく、休みの日はゲームに夢中で、外出することもないので、周りに驚かれるという心配もない。
彼としても、そのうちに、自分でもチャンスをものにしようという算段もあった。
早速、彼の頭は、少しの前髪を残して、他は丸坊主にされた。
翌日から、社内には活気が戻り、それに合わせて、業績もよくなっていった。
しばらくしたある休日、珍しく外出した彼は、宝くじ売り場の前を通りかかった。
「これだ。」
彼は、宝くじを数枚買った。
買うときに、自分の前髪をつかみながら、「当たりますように」と念じ、宝くじを受け取った。
彼の生活は変わらなかった。
いつも通りに出社し、いつもの仕事をこなし、時々、誰かに前髪をつかまれる。
宝くじは、末等が数枚当たっただけだった。
その後も宝くじを買っては見たものの、高額当選とはほど遠いものだった。
慣れない競馬やパチンコなどのギャンブルにも手を出してみたが、ただただ金をつぎ込むばかりで、チャンスも利益もほとんどなく、運には見放されたようだった。
一方で、仕事では、前髪をつかみながらチャンスを活かし、成績は順調だった。
また、前髪をつかみながら、意中の彼女と結婚した。
何年かが過ぎ、前髪をつかまれる人生が面倒くさくなってきた。
前髪以外を剃ることをやめた。
次第に髪は伸び、前髪は頭髪全体に埋もれ、チャンス君の頭ではなくなった。
もう、誰も彼の前髪をつかむこともなくなった。
その頃から、会社には活気がなくなり、業績もパッとしないものとなった。
そうした状況が続くうちに、誰からともなく、チャンス君を作ろうということになった。
話し合いの結果、一人の若手社員がチャンス君となった。
翌日から、社内には活気が戻り、それに合わせて、業績もよくなっていった。
何年かが過ぎ、彼も前髪をつかまれる人生が面倒くさくなり、前髪以外を剃ることをやめ、チャンス君の頭ではなくなった。
その頃から、会社には活気がなくなり、業績もパッとしないものとなった。
そうした状況が続くうちに、誰からともなく、チャンス君を作ろうということになった。
話し合いの結果、一人の若手社員がチャンス君となった。
翌日から、社内には活気が戻り、それに合わせて、業績もよくなっていった。
何年かが過ぎ、彼も前髪をつかまれる人生が面倒くさくなり、前髪以外を剃ることをやめ、チャンス君の頭ではなくなった。
その頃から、会社には活気がなくなり、業績もパッとしないものとなった。
以下、続く。