16. 二つの顔を持つ男 復活

人格が破壊した男でも、適切な治療を受ければ、正常に戻る。
彼も二つの人格ゆえに、本来の自己の人格が破壊し、完全に呆けてしまったが、長い治療の末に、元の人格が回復し、正常な精神状態を取り戻すことができた。
彼の場合は、顔の骨に骨格があり、それを自分で操ることによって2つの顔を使い分けているうちに、それぞれの顔に合わせた、相反する人格が形成され、遂には、それらの人格が互いに決裂することによって、人格の破壊をもたらした。
そのため、彼の治療に際しては、自分の顔を見ることがないように、顔をマスクで覆い、部屋からは鏡等の一切の反射物を排除した。
その甲斐もあって、彼は人格破壊から復活し、元の本来の人格を取り戻したのだ。
そうして、いよいよ、社会復帰できるまでに至ったのだが、ここで、一つの課題があった。
社会生活を営む上では、常に顔をマスクで隠しているわけにはいかない。
マスクを外せば、街中にある反射物に写った自分の顔を見ることになり、再び、人格の破壊を招きかねない。
彼と、彼の担当医は、考えた。
顔を一つにすればよいのではないか。
といって、顔を固めることなど、できはしない。
せめて一定時間だけでも、一つの顔を維持できれば、二つの顔を見る機会を減らすことができる。

求めれば、救いはある。
フェイスバンドで、顔を整えれば、その後、しばらくは、一定の顔を保つことができるのではないか。
早速、試してみる。
フェイスバンドを顔にあて、形を整える。
3分間そのままにし、フェイスバンドを外すと、整えたままの顔をキープできた。
これだ。

彼は退院した。

彼は、外出するときは、フェイスバンドで顔を整えてることが日課になった。
人の体は、外部からの刺激で進化する。
彼は、フェイスバンドで、美男顔に整えるようにした。
自分でもほれぼれするようなイケメンの顔で、自信にあふれた姿で街を闊歩した。

彼がフェイスバンドを使い始めてから3か月ほど過ぎたころ、彼は、街中の男の顔の変化に気が付いた。
みながみな、彼同様のイケメンだらけだ。
即ち、世の男たちも、美男顔を得ることで、活力に溢れた男子となった。
かくして、二つの顔を持つ男の復活と時を同じくして、男たちもその名誉を回復したのである。


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15. 二つの顔を持つ女

彼女の顔には、無数の関節があった。
通常、人の顔には、顎の関節があるだけで、他には関節はない。
そのため、顔は、口の開け閉め等で最も大きく変化し、あとは、表情筋によって、皮膚を変化させることで、きめ細かい表情を作り出す。
彼女の場合は、顔の骨の表面が、多角形のコマで覆われており、そのコマ同士が6次元で動く。
しかし、そのコマ同士をつなぐ筋肉はなく、顎を動かすときのように、各コマを自由に動かすことはできなかった。
唯一、表情筋によって、コマの角度、向きを変化させて、通常の表情筋だけの動きを超えた顔の変化を見せることができた。
例えて言うなら、二つの顔を持つ女というくらいの変化だった。
そうは言っても、表情筋の動きだけでは、望む形に自在に顔の形を変えることは、至難の業だった。

そんなある日、彼女は、フェイスバンドを見つけた。
それは、着けるだけで顔かたちが整うと言われるものだった。
彼女は、早速、そのフェイスバンドを買って、顔にかけてみた。
もちろん、意味もなく顔にかけるのではない。
自分が望む顔の形になるように、そのフェイスバンドで、形を整えるようにかけてみた。
彼女の望みは、誰しもが望むこと、奇麗になりたいことだ。
少しずつ丁寧に、形を整えながら、フェイスバンドを調整していく。
自分の望む形になったところで手を放し、フェイスバンドをつけたままにした。
3分後、フェイスバンドを外す。
鏡の向こうには、モデル並みに整った、美人顔の彼女がいた。

それ以来、彼女が外出するときには、そのフェイスバンドで顔を整えてから外出することが日課になった。

彼女がそのフェイスバンドを見つけてから1ヶ月ほど経った頃、彼女は、街中の女性たちの顔の変化に気付いた。
自分だけではなく、道行く女性たちの顔が、みんな、整った美人顔になっていることに気付いたのである。
それは、女性たち自身にとっても同じであった。

今や、フェイスバンドを持たない女性は皆無となり、それは、女性たちをさらに美しくし、それに伴って、自信に溢れた、快活な女性たちの世の中となった。

男たちは、...
今や、陰の薄い、弱弱しい存在となり下がったのである。


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