人格が破壊した男でも、適切な治療を受ければ、正常に戻る。
彼も二つの人格ゆえに、本来の自己の人格が破壊し、完全に呆けてしまったが、長い治療の末に、元の人格が回復し、正常な精神状態を取り戻すことができた。
彼の場合は、顔の骨に骨格があり、それを自分で操ることによって2つの顔を使い分けているうちに、それぞれの顔に合わせた、相反する人格が形成され、遂には、それらの人格が互いに決裂することによって、人格の破壊をもたらした。
そのため、彼の治療に際しては、自分の顔を見ることがないように、顔をマスクで覆い、部屋からは鏡等の一切の反射物を排除した。
その甲斐もあって、彼は人格破壊から復活し、元の本来の人格を取り戻したのだ。
そうして、いよいよ、社会復帰できるまでに至ったのだが、ここで、一つの課題があった。
社会生活を営む上では、常に顔をマスクで隠しているわけにはいかない。
マスクを外せば、街中にある反射物に写った自分の顔を見ることになり、再び、人格の破壊を招きかねない。
彼と、彼の担当医は、考えた。
顔を一つにすればよいのではないか。
といって、顔を固めることなど、できはしない。
せめて一定時間だけでも、一つの顔を維持できれば、二つの顔を見る機会を減らすことができる。
求めれば、救いはある。
フェイスバンドで、顔を整えれば、その後、しばらくは、一定の顔を保つことができるのではないか。
早速、試してみる。
フェイスバンドを顔にあて、形を整える。
3分間そのままにし、フェイスバンドを外すと、整えたままの顔をキープできた。
これだ。
彼は退院した。
彼は、外出するときは、フェイスバンドで顔を整えてることが日課になった。
人の体は、外部からの刺激で進化する。
彼は、フェイスバンドで、美男顔に整えるようにした。
自分でもほれぼれするようなイケメンの顔で、自信にあふれた姿で街を闊歩した。
彼がフェイスバンドを使い始めてから3か月ほど過ぎたころ、彼は、街中の男の顔の変化に気が付いた。
みながみな、彼同様のイケメンだらけだ。
即ち、世の男たちも、美男顔を得ることで、活力に溢れた男子となった。
かくして、二つの顔を持つ男の復活と時を同じくして、男たちもその名誉を回復したのである。